エスペラントは印欧語を基にしているため屈折語的性格を持っていると言われることがあるが、文法上の性を持たず、語幹に一定の接辞(接頭辞・接尾辞)や文法語尾を付け加えて語の意味を限定したり拡張したりするなど、膠着語的性格を遥かに色濃く有しており、実際にはほとんど膠着語であると言って差し支えない。名詞及び形容詞は主格及び対格の二つの格を持つ。名詞及び形容詞には更に単数(singularo)及び複数(pluralo)の区別があり、形容詞はそれが関わる名詞に合わせて格と数の変化をする。対格語尾には、移動の目標を表したり任意で適切な前置詞の代わりをしたりする働きもある。対格があるので、ロシア語、ギリシア語、ラテン語又は日本語等のように語順は比較的自由である。なお、動詞は人称変化しない。
冠詞
「不定冠詞は無い。全ての性、数、格に関係ない定冠詞laがある。」(エスペラントの基礎、文法第1条)
逃走の大地 ロゴス クキン タラン ハンマー ベニア 琥珀の月 ガブリエル アフタン フリーダム アイド いせい レインボー カスタ シャックル 天応最適 スポー マンバ てんびん ミュンヘン ガラニン ドリン ブルドー 春玉 バンニン 青い ドレス ブラン ビデオ メンタリ サーペント ビットト ドルフィン ピクトブ ルドベ サーコー 市松模様 ミントン マルタ リタイ バッテ ブラシ トルコ石 ネート オフチュ シンド ウース ミツマタ ラッシュ ちずい魚
品詞語尾
エスペラントでは全ての名詞、形容詞、動詞と、形容詞等からの派生副詞は、語幹(radiko)とその単語の品詞をあらわす品詞語尾(finaĵo)の組み合わせによって構成される。例えば forto(力)はfort-という語幹と名詞を表す語尾-oから成り立っている。品詞語尾によって単語の品詞がわかり、また品詞語尾を換えることにより品詞を変化させることが出来る。例えば forta とすると「強い」という意味になる。
品詞語尾-oは名詞(substantivo)、-aは形容詞(adjektivo)、-eは副詞(adverbo)をそれぞれ表す。名詞あるいは形容詞の品詞語尾の後ろに-jを加えると複数形になる。対格にするには-nを名詞あるいは形容詞語尾の後ろにつけ、複数形の場合は複数形語尾の後ろにつける。動詞には法や時制を表す6種類の語尾がある。
形容詞は名詞の数と格に一致させる。すなわち修飾する名詞が複数形の場合は形容詞も複数形にし、対格の場合は形容詞も対格にする。bona(良い)、tago(日)を例に一致の変化を示す。
主格 対格
単数 bona tago bonan tagon
複数 bonaj tagoj bonajn tagojn
形容詞の数と格の一致によって語順がかなり自由となり、また、形容詞‐名詞、名詞‐形容詞のどちらも可能であることによって標準的なSVO型の他、SOV型やVSO型などの文も作ることが出来る。ただし初心者はこの「一致」を忘れることが多い(ただし、忘れても会話が成立しなくなるほどの問題になることはないだけの冗長性をエスペラントは備えている)。
La knabino feliĉan knabon kisis. (ラ・クナビーノ・フェリーチャン・クナーボン・キースィス)=「その少女は幸せな少年にキスした」
La knabino feliĉa knabon kisis. (ラ・クナビーノ・フェリーチャ・クナーボン・キースィス)=「その幸せな少女は少年にキスした」
合計すると二個以上になる複数個の単数形の名詞を修飾する形容詞は複数形にする。
ruĝaj domo kaj aŭto. (ルーヂャイ・ドーモ・カイ・アウト)=「赤い[家と車]」
この例では家も車も赤いことになる(家も車も単数だが修飾する「赤い」が複数なので、両者にかかっていることがわかる。意味としては、ruĝa domo kaj ruĝa aŭto. (ルーヂャ・ドーモ・カイ・ルーヂャ・アウト)=「赤い家と赤い車」と同じ)。
ruĝa domo kaj aŭto. (ルーヂャ・ドーモ・カイ・アウト)=「[赤い家]と車」
上の例に対してこちらは、家は赤いが車の色は不明である(修飾する「赤い」は単数なので、単数の「家」のみにかかることが明らか)。
叙述的な形容詞は対格としない。
Mi farbis la pordon ruĝan. (ミ・ファルビス・ラ・ポルドン・ルーヂャン)=「私は赤色のドアを塗った(ドアは始めから赤色)」
Mi farbis la pordon ruĝa. (ミ・ファルビス・ラ・ポルドン・ルーヂャ)=「私はドアを赤色に塗った(塗った結果として赤色になった)」
人称代名詞
※()内は同義の英語
単数 複数
1人称 mi (ミ) - 私 (I) ni (ニ) - 私たち (we)
2人称 vi (ヴィ) - あなた/あなたがた (you)
3人称 li (リ) - 彼 (he) ili (イリ) - 彼ら/彼女たち/それら (they)
ŝi (シ) - 彼女 (she)
ĝi (ヂ) - それ (it)
oni (オニ) - ひと/人々 (one, people; 仏語 on)
再帰 si (スィ) - 自身 (self, own; 独語 sich)
親しい間柄で使われる2人称単数の代名詞ci(ツィ)も存在するが、現代ではほとんど使われず、 2人称複数の代名詞viを一人の相手にも使うのが普通である。
対格にするには-nをつける。「私を」はminとなる。所有格(所有形容詞、属格)にするには形容詞語尾-aをつける。「私の」はmiaとなる。所有形容詞は形容詞の一種なので、普通の形容詞と同じように複数語尾や対格語尾の変化があり、miajn librojn 「私の本(複数)を」のように、名詞の数と格に一致させる必要がある。
動詞
動詞の「不定形」は「不定詞」ともいう。 不定形以外の現在形から命令形までを「定形」又は「定動詞」と呼ぶ。 現在形から未来形までは「直説法」である。 また、仮定形は「仮定法」と、命令形は「意志法」と呼ばれる。
動詞(verbo)に関しては、平叙文での動詞の位置は原則として文の要素のうち2番目に置かれるのが普通であるが、実際にはかなり自由である。エスペラントには助動詞(helpverbo)と明確に呼ばれる品詞が無い。povi、devi及びvoli等は、下に示すように西欧語等での助動詞と同じような意味・用法を持っているが、他の動詞と活用上区別されない。同様に、存在動詞にも活用上の区別がない。英語などとは異なり、自動詞と他動詞の区別は厳格である。英語やフランス語などにあるような「時制の一致」はない。不規則動詞は全く存在せず、世界一不規則動詞が少ない言語として、ギネスブックに登録されている。動詞は人称変化しない。例としてkanti(歌う)を使って変化を示す。
不定形 -i(kanti)
現在形 -as(kantas)
過去形 -is(kantis)
未来形 -os(kantos)
仮定形 -us(kantus)
命令形 -u(kantu)
分詞 能動態 受動態
継続相 -ant- ?している (kantanta) -at- ?されている (kantata)
完了相 -int- ?した (kantinta) -it- ?された (kantita)
将然相 -ont- ?しようとする (kantonta) -ot- ?されようとする (kantota)
分詞は態(能動・受動)と相(継続・完了・将然)によって6種類存在する。これは現在分詞(能動態継続相)と過去分詞(受動態完了相)しか持たない英語などの言語とは大きく異なる点であり、これらの分詞と動詞esti(複合時制を作る助動詞のように働く)の3時制(現在形・過去形・未来形)との組合せによって、エスペラントでは非常に精密な時制表現をすることができる(能動態・受動態のそれぞれに9種類ずつのバリエーションができる:現在継続(進行)形、現在完了形、現在将然形、過去継続(進行)形、過去完了形、過去将然形、未来継続(進行)形、未来完了形、未来将然形。必要なら現在完了進行形のような複複合時制を作ることもでき、バリエーションは更に増える)。ただし、分詞を使った複合時制はエスペラントでは好まれず、英語なら現在進行形や現在完了形など複合時制を義務的に用いる場合でも、エスペラントでは単純時制(にアスペクトを表す副詞を組み合わせたもの)で済ませてしまうことのほうが多い。
受動態用の分詞が一通り揃っているにもかかわらず、受動文もエスペラントでは避けられる傾向にある。
上の例では分詞の形容詞形(分詞形容詞)を掲げてある。分詞形容詞は形容詞の一種なので、関連する名詞に合わせて性・数の変化をすることに注意されたい。これら分詞形容詞から派生した分詞副詞・分詞名詞も存在する。いずれも語末の品詞語尾を付け変えるだけで簡単に作ることができる。分詞副詞(例えば kantante「歌いながら」)はフランス語のジェロンディフやイタリア語のジェルンディオ等のようなもので、文の主動詞に対する同時性等を表したり、分詞構文を作ったりする。分詞副詞は性・数の変化をしない。分詞形容詞・分詞副詞ともに、対格目的語を取る動詞(他動詞)から作られたものは、対格目的語を取ることができる。
分詞名詞(例えば kantanto「歌っている人」)は分詞形容詞や分詞副詞よりも動詞的性格の薄れた完全な名詞であり、たとい他動詞から作られたものであっても対格目的語を取ることはできない。たいていの場合、その動作をする人物を表す。そして分詞名詞じたい複数形になったり対格形になったりすることができる。